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「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」

「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか 低体温症と事故の教訓」羽根田治・飯田肇・金田正樹・山本正嘉(ヤマケイ文庫)



昨年、万里の長城ツアーで日本人の遭難死亡事故があった。ニュースでの「低体温症」「アミューズトラベル」というどこかで聞いたような言葉が引っかかり、調べてみたらこの本に行き当たった。
4人の著者がそれぞれ、生存者へのインタビューに基づく遭難の概要、気象条件、低体温症、運動生理学をデータと共に説明、その上で今回のケースとツアー登山の問題点を整理し、問題提起と登山の注意点を記載している。
専門的な難しい言葉も平易な表現にしてあって分かりやすく、クールなようでいて、4人の著者の文章は熱い。
山を愛し、登山を愛するからこそ、二度とこのような事故は起きてほしくないし、起こってはならないのだという決意が伝わってくる。



2009年7月16日、大雪山系トムラウシ山でツアー客18人のうち8人が低体温症で死亡するという、夏山登山史上最悪の遭難事故。
低体温症という言葉は聞いたことがあったが、夏でも起きるということに驚いた記憶がある。夏山でも実は毎年犠牲者が出ているそうだ。
当時の報道では、夏山の油断からくる装備の甘さが指摘されていたが、著者の調査では、それほど装備に不足のある参加者はいなかったようだ。
持ち物の中に入っていても、着用できなかった。
もしくは、着用しようという判断ができなかった。
食べ物でエネルギーを補給することを思いつかなかった。
携帯電話を持っていたにも関わらず、通じる場所で救助を要請する判断が遅れた。
判断能力の低下、低体温症の恐ろしさはそこにある。
寒くなった時に体が震える理由は、筋肉を無理矢理動かして体温を上げ、内臓や脳に温かい血液を供給しようとするのだという。
だが、風と雨で急激に体温が奪われた場合、震えることすらできずに内臓と脳の温度が下がり、気づかないうちに思考レベルが落ちる。体は思い通りに動かなくなる。
「ある時点から忍び寄るように低体温症が進行する」と書かれているが、恐ろしいことだ。



低体温症はガイドも襲う。
3人のガイドうち、リーダーで添乗員も兼ねていた人は亡くなった。生き残った2人のうち1人がインタビューに答えている。
その内容には、自己保身にも聞こえる部分がいくつかあったが、だからこそリアルに響く。インタビューを受けたことに、彼の勇気と責任感を感じた。
旅行会社とガイドのいびつな関係、不安定な立場と不釣り合いな責任の大きさ、ガイド同士やチームの信頼関係の大切さ…。
亡くなったガイドリーダーは有能で頼りがいがあったと生存者は語っている。だが、遭難までの流れを読んでいると、有能な添乗員(旅行会社側の人間)だったからこそ、スケジュールを優先してしまったのではないか。
真相はもうわからないが。



悪天候の中で山小屋からの出発を通知した際、客から少し不満はあったものの、反対は聞かれなかった。
十分に食事や睡眠がとれない人がいた。
前日に濡れた衣類や靴が乾いていない人がいた。
ツアー客に伝えるべき情報(雨具の中に衣類を着込むなど)が伝えられなかった。
最初に体調を崩した人が出た時に、引き返さなかった。
等々。
強いていえば、バラバラの地域から集まってきた3人のガイドたちに面識がなく、話し合いや連携がうまくとれなかったのが大きな原因だったのかもしれない。だが、天候が良ければ、それでも問題はなかったのだ。
事故を回避できたはずの1つ1つの分岐点が、あまりにもささいなことなのに愕然とする。
自分よりも経験も知識もあるはずのガイドが出発しようと言い、ツアーの他の客からもはっきりした異論が出なかったとしたら、私も従っただろう。
多少体調が悪かったとしても、最後の日だからと誰にも言わずに無理したかもしれない。
重い荷物を少しでも軽くするために、食糧を少な目にしたかもしれない。
ふんばらないと転んでしまうほどの風雨の中、雨具を一度脱いで中に1枚着込むなんて、面倒くさく思ったかもしれない。
考えれば考えるほど、どうしたらこの悲劇を回避できたのか分からなくなる。



読み終えて、亡くなった方も、生存者も、なんだかやりきれないなと思った。
実態を知れば、自己責任などという冷たい言葉ひとつで、人の命まで分かったふりなどできない。
彼らは山を甘くみていたわけではない。準備していなかったのではない。体力が無かったのではない、私より高齢だがよほど体力のある人たちだ(何しろ日に10時間以上山道を歩き続けるコースなのだ)。
朦朧としながら、全員が懸命に闘っていた。
低体温症のためにうまく考えられなくなった頭で、一生懸命に生きようとし、励まし、救助しようとし、倒れていった。
二度と悲劇が繰り返されないように祈るだけでなく、この本の知識と、著者の想いが、全ての登山者に行き渡ってほしいと強く思った。
亡くなられた方々のご冥福を祈らずにはいられません。





トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか (ヤマケイ文庫)トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか (ヤマケイ文庫)
価格:¥ 998(税込)
発売日:2012-07-23

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