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●#10(2001.6.5)● すばらしい孤独

結局みんな、自分の信じたいことしか信じないんだね。それが世界を小さくつまらないものにしているとしても。
クール?客観的?どっから見ても明白な正解?美しき数学の定義じゃあるまいし、人がいろんなものと関係を持つ中で、そんなもんは存在しない。
相対する限り、真実はめまぐるしく変わる。時には単なる事実さえ越えて変質させてしまう。情報操作はマスコミだけでなく自分の心の中でも常に起きているからだ。
ネット上であればその速さは何倍にもなる。意識していなければ、他者の意識(時には意志)に、あっという間に呑み込まれる。誰のせいでもない、自分のせいだ。

今から7年ほど前、ある冒険家を知った。彼は北極点に一人で到達しようとしていて、その資金集めのためにTシャツを売っていた。
白地にスカイブルーで「北磁極」と染め抜かれたシャツは、今この瞬間(2001.6.3 18:17)わたしの膝の上にあって、触れている肌がほんのり暖かい。
河野兵市氏、彼は個人旅行者の間ではけっこう有名人だった。リヤカー1台引っ張っている彼を、サハラ砂漠のあちこちで何人かの旅行者たちが出会っていて、その話を聞くことができた。わたし自身会ったことはなかったが、そのTシャツ購入がきっかけで毎年年賀状を交換するようになった。
彼の字はちょっと判読不可能な時がある程パワフルで柔らかく、いつも太いペン先の万年筆で書かれていた。その字は北極点到達前も後も変わりなく、年賀状のやり取りは続いた。
河野さんとそうやって交流しているおかげで、時々、「ほんとうの孤独」について考えるようになった。

彼はたった一人で氷上を走る。大きな氷の割れ目を避けて大回りする。いつも空の様子を伺い、激しいブリザードの予兆があると、もくもくとテントを準備する。外気に触れている部分は凍ると同時に紫外線に炙られる。白い世界に風の音だけが通り過ぎる。辺りには誰もいない。
けれど、彼は知っている。一人ぼっちではないことを。無線は絶えずベースキャンプに通じていて、彼をバックアップしているし、そこまで到達するのに力を貸してくれた国内外の人たちが、彼のリーチング・ホームを信じて待っている。あとは、時折遠くからこちらを眺めている動物たち。彼らの領域に敬意を表しつつ通り過ぎよう。
孤独がすばらしいのは、そういうことだ。信頼する人たちと繋がりながら、一人だけの知恵や経験を使ってさまざまな問題を切り抜けてゆく。体力はもちろん、新しい出来事を純粋に楽しむ度量も必要だ。
きちんと孤独になることは難しい。空っぽな人は、何かに寄りかからないと立つことも出来ないから。彼は自然と対峙していた。彼の心には北極軸があって、いつもある方向を指していた。
何度も死と隣り合わせになっても、河野さんは一人で冒険をした。犬も連れてはいなかった。たぶん彼は、他者が傷ついたり死んだりする可能性が嫌だったんだと思う。
ほんとうに優しい人は、いつも孤独なんだと思う。

河野さんの遺骨は、6月3日、故郷に到着した。

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